ポスティングのバイトをしていたときに起こった話である

この話は、ある男が4年前、ポスティングのバイトをしていたときに起こった話である。

その日は雨上がりで寒い日だったのを覚えている。
あちこちにある水たまりのせいで靴は濡れるし、まだ山のようにあるチラシを見て、俺はすごくイライラしていた。
一軒家を何軒か回ったあと、“○○荘”といった小さな古ぼけたアパートが二軒平行して建っているのを見つけた。
(集合ポストじゃないよなぁ。めんどくせー)
古いアパートは集合ポストではない場合がほとんどで、階段を昇り降りしてまわらなくてはならないので面倒なのだ。
靴下にまで染みてきた雨水を不快に感じながら、階段を昇った。昇り切った所でふと横を向くと、隣のアパートの部屋が丸見えだった。
一瞬、目をそらした。二階の左の部屋でぶら下がっているなにかを見たのだ。
それは首吊りしている男だった。
目が悪い俺でも、なぜか顔まではっきり見えた。
俺は冷静になって、すぐに警察に電話した。警察を待っているとき、ふと「まだ生きているかもしれない、助けられるかもしれない」という思いが湧き上がった。
今思えばかなりの怖いもの知らずだと思うが、俺は一目散にその部屋へ向かった。
問題の部屋は鍵がかかっておらず、すぐに開いた。狭いワンルームだ。玄関からすぐに宙吊りの男の後ろ姿が見えた。
俺は男に近づき、声をかけて触ってみた。やはり死んでいた。ふと恐ろしくなり、急いで部屋から出ようとしたときだった。
男の右手が突然動いて、向かいの“荘”の正面の部屋を指差したのだ。俺は驚いて、叫びながら部屋を飛び出した。
怖くて外で震えていると警察が来た。確認のため一緒に部屋へ入ると、死体は元のままだった。もちろん再度右手が動くことはなかった。
あとで聞いた話では、隣のアパートからも数日後に首吊り死体が見つかったそうだ。見つかった部屋は死体が指差した部屋だった。
寂しく死んだ男が、同じ死に方をした人間を早く見つけさせてあげたかったのだろう、俺はそう感じた。